フォト

お弁当メール・東京ガス

西の魔女が死んだ・公式サイト

8月のクリスマス公式サイト

『黒帯〜KURO-OBI』公式サイト

闇打つ心臓・公式サイト

  • 闇打つ心臓 Heart Beating in the Dark
    2006ロッテルダム国際映画祭 『オープニング作品』&『長崎俊一特集』/バンクーバー国際映画祭『特別プレミア上映』 /マルデル・プラダ国際映画祭 /韓国全州映画祭/ロンドン、ウィーン、サンフランシスコ、他、多数海外国際映画祭正式招待

『柔らかな頬』 原作・桐野夏生

ドッグス

  • ドッグス
    1999バンクーバー国際映画祭/ロッテルダム映画祭/ウィーン映画祭 他、多数 ★主演・水島かおり

ロマンス

  • ロマンス
    1996ベルリン国際映画祭/バンクーバー国際映画祭/ロッテルダム映画祭、 他、多数 ★主演玉置浩二・水島かおり・ラサール石井
無料ブログはココログ

« ババ レンタインデー♪♪ | トップページ | バラエティー番組の依頼 2 »

2013年2月 9日 (土)

友達

天井の木の木目って、いろんな顔に見えるな…
同じ木目でも昼と夜とでは違うか…怖い顔も普通に見えたり…
…いや、やっぱり怖いな…ガムテープで隠そうか…
「電話よ」
「え、…誰?」
「あれ?誰だっけ?男」
「兄貴?」
「だったら分かるわよ。同級生だとか言ってた」
「同級生?いつの?」
「知らないわよ」
「ふ〜ん。なんで此処知ってんだろう」
「ボケッと寝っ転がってないで早く出なさい」
誰だろう。
誰にしても面倒だなぁと思いながらのらりのらりと階段を降り、
玄関の下駄箱の上の黒電話の受話器を取る。
「もしもし」
「あ、俺」
「あ…」
「あのさ、これから行くよ」
「へ?」
「そこ何処?」
トントントンと軽快ないつもの口調に気が緩み
駅とバス停の名前を言ったら
「1時間後だな。バス停で待ってて。じゃ」
電話が切れた。
「誰?」
「同級生…来るって」
「此処に?」
「分からない。バス停で待ち合わせした」
「あら、片さなきゃ」
「……」
又、二階へ上がりごろんと寝転び、
天井の怖い顔に見える木目を見ながら時間を潰した。

「ちょっと、行ってくるわ」
「温かい格好した?寒いから」
「したした」
庭から出た。
寒っ。空を見上げるとどんより厚い雲、雪が降りそうだ。
約束した時間より10分程早くバス停に着いたら、
彼が立っていた。
「よう」
いつもの笑顔と、いつもの『よう』に少し懐かしく感じ、
ふっと笑ってしまった。
「なに笑ってんだよ」
「相変わらず、勝手だな〜と思って」
「お前に言われたくないよ」
「はぁ〜〜??」
「元気そうだな」
「元気だよ」
「元気じゃないよ」
「…なに言ってんの?」
「ま、座ろ」
「ここら辺、喫茶店とかないよ。畑ばかりだし」
「ここでいいよ」
「ここ?」
「ベンチあるじゃん」
「ああ…」
二人でバス停の横にある、ベンチに座った。
「ウチから結構近いな。30分くらいだった」
「そんなもん?」
「そんなもん」
「寒いから、叔母さんのとこ行こう」
「いいよ。ここで。行ったら、お前気使うだろ」
「…まぁ…ね」
「当分、ゆっくり休んだ方がいいよ。
 甘えられる所があるんだから使うときは使ってさ」
「……」
「しかし、見事に畑だらけだな。30分でこうも違うか」
「そうだね」
「でも、今のお前には丁度いいよ」
「なにが」
「空も広いし…静かだし…沢山寝た方がいいよ」
バスが止まる。
運転手が
ベンチに座っている私たちが乗ると思うのは当然なので、
バスが止まってドアが開いた。
彼がすっと立ち上がり、開いたドアに近づき頭を下げている。
「そりゃ、止まるよな」
「うん」
「次のバスで帰るわ」
「そう」
「家に電話したらさ、
  今、お前が居る電話番号教えてくれたんだ」
「……」
「あ。これ」
彼が小さい手提げの紙袋を私の膝の上に置いた。
「ここの豆大福美味いって、いつか言ってただろ」
小さい手提げの紙袋の〇〇堂という字をじっと見た。
「…ありがとう」
「おっ。おばあさんが来た、立て、立て」
「あ…」
私はその小さい手提げの紙袋を持ち、
彼はおばあさんに、「どうぞ、どうぞ」と、ベンチに座る様に、
さっきバスの運転手にペコリと頭を下げた様に又、下げた。
今度は、二人、ベンチの隣に立った。
「もうすぐ来るな」
「え?」
「バスだよ」
心がそわそわ仕始めた。でも、言葉がみつからない。
「あのさ」
「大福足りるかな」
「え」
「叔母さんち、何人?」
「えーー」
「6個しか買って来なかった」
「あ、足りる、足りる」
「あそ、よかった」
「……」
「また、電話するよ。あんまり頑張るなよ」
手提げの紐をぎゅっと握った。
彼が首をかかげ遠くを見た。
私も見た。
バスが来る。
彼が財布から小銭を出そうとして、私はその手を止めた。
伯母さんから貰ったバスの回数券を一枚差し出した。
「私じゃなくて、伯母さんが」
彼が私の顔を見て笑った。
私も笑った。
「だろうな」
バスが来た。
彼がポンと、私の肩を軽く叩きバスに乗り込んだ。
彼がいつもの笑顔で手を振っている。
私は、たぶんとても間抜けな顔をしていた様に思う。
バスを追いかけたくなったけど足が動かなかった。
バスがどんどん小さくなって見えなくなった。
誰もいなくなったバス停のベンチにぺたりと座り込んだ。
ふと気づくとバスが止まっていた。
私は慌てて立ち上がり、運転手さんにぺこりと頭を下げ、
豆大福が入った小さな手提げの紙袋を抱え歩き出した。
帰り道、
空を見上げると今にも雪が降り出しそうな空なのに、
分厚い雲の隙間から
見えないはずの薄水色の青空が見える気がした。
「空広いなぁ」
言葉がこぼれた。

その夜からなのか、いつからなのか、
天井の木目の怖く見えた顔も
見えなく…というか忘れていた。
それに気づいたのは
伯母さんの家を出て一人暮らしを始める前の夜だった。

彼とは、男と女として付き合う事はなかったけど、
同級生から友達になり、今でも交流は続いている。

終わり

« ババ レンタインデー♪♪ | トップページ | バラエティー番組の依頼 2 »